Q.「ナチュラルな音に聴こえるけれど、エフェクトはどんな設定をしているの?」
自らもエレクトリックヴァイオリンを演奏されているという方からこんなご質問をいただきました。
A.現在の接続は
ヴァイパー→
DD-20(ディレイ)→
RC-30(ループ)→
アンプ
機材を繋ぐほどに、ノンエフェクトの音が損なわれてしまうので、エフェクトペダルは極力減らしてあります。
その分、弾き方で作れる変化が大きくなりました。
アンプでの軽いリバーブ以外、常時かけているエフェクトはありません。
以下はここに至る紆余曲折です。
さらにマニアックな話にも踏み込んでみたいと思われる方はお読みください♪
エレクトリックヴァイオリンの発音の仕組みは
楽器を弾く(弦を振動させる)→
ピックアップ(マイク)で振動を電気信号に変換→
その信号を楽器用アンプに送る→
アンプで電気信号を音に変換
というものです。
一番シンプルな繋ぎかたは
楽器→ケーブル→アンプ。
ところが多くの場合、これでは良い音は出てくれません。
楽器の振動を電気信号に変換する時、
信号が長いケーブルを通る間、
電気信号を音に変換する時
などにかなりのエネルギーロスがあり、それが音を損ねてしまいます。
そこでまずは
○プリアンプによる安定化
ピックアップの弱い信号を増幅することを考えます。
音色も変えられるので、イコライザー付プリアンプを使ってみましょう…。
キンキン、ギャンギャン、カーカー、カスカス、ギシギシ、クトゥクトゥ
増幅しただけの音はちっとも良い音ではありません。
キンキン、ギャンギャンは高音成分。
少し下げてみると、うるさくなくなってきます。
中音を持ち上げるとカスカスな音が少し艶やかになった気がします。上げすぎるとカーカーするので加減。
擦弦のクトゥクトゥする音は低音成分。
下げると少し目立たなくなります。
さて、まだ美しい音からは程遠い、伸びの無い音なので、
○エフェクト
少し化粧してみましょう。
やっぱりリバーブ?
ここまでをまとめてみると、
弱い信号を増幅して安定化(パッシブ→アクティブ)、
イコライジングでキンキン成分を削り、細さが気になる中音域を持ち上げて太い音にして擦弦音を削り、
リバーブで化粧。
つまり良い音のカギは
○プリアンプによる安定化
○イコライジング
○エフェクト
…なのかな?
そうやって作られた音は一見(一聴)聞きやすい気がします。
ところが実際に曲を弾いてみるとどう弾いてもほとんど全てが同じ音色、同じ太さ、同じ音量。
のっぺりとして表情がありません。
何か根本的なところを見直す必要がありそうです。
まずはリバーブから。
よく聴いてみると、あまりなじんでいないことがわかります。
細い音の芯と、分離した薄っぺらいリバーブ。
深いリバーブをかけて上手くなった気がしているのは弾いている本人だけで、聴いている側は
風呂場で弾いているみたいでワンワンする…
としか聴こえないのですね…恐ろしい。
高価な機材を使えば良い
というような問題でもありません。
そもそもアコースティックヴァイオリンはリバーブの効いた部屋でなくても美しく聞こえます。
つまりは
元の音が美しければ、リバーブがかかるとなお綺麗になるけれど、
リバーブで美しい音にできるわけではない
ということのようです。
…となるとエフェクトよりも前のイコライジングが重要?
しかしこれまた、
1番弦のキーキー甲高い高音部を削りたかったイコライジングは高音弦だけではなく他の弦の信号にまで等しく効果が出るので、音のキラキラ成分を奪い、全体が鼻をつまんだような音になっています。
弓を返す時のクトゥクトゥする音を削るために下げた低音成分は低音弦の太さを奪ってしまいました。
これらを避けるために、それぞれの弦を別々にピックアップして、それぞれに合った調整をしてから出力してみると…
楽器が重くなって演奏しづらくなると元も子もありません。
さらに各弦の音色が変わりすぎてしまうと移弦の度に別の人が歌っているようになり、メロディにすら聞こえなくなってしまったりします。
イコライジングは入力した波形をおおまかな周波数帯に分けたそれぞれの部分を削ったり持ち上げたりするものなので、変えたい弦の変えたい音だけを選んで引いたり足したりできるような便利なものではありません。
それにどうやら最も大きな壁は、
機材を通せば通すほど音の電気信号は元の振動からかけ離れ、
ヴァイオリンの表現力の面白さである、音色や音量の変化がぼやけてしまい、
平均化された音になってしまうということです。
そうするとイコライザーはアンプ内蔵のもので十分!?
プリアンプの役割であるパッシブからアクティブへの変換は常時接続しているループペダルに内蔵されたバッファアンプがしてくれる…
ということはもしかしてプリアンプは要らない!?
プリアンプでちょっとだけ太い音にする代わりに失うものは、強弱の振れ幅と、音色の変化。
…プリアンプをはずそう。
こうして突き詰めてみると、
入力(演奏)をそのまま伝えられる楽器を作って演奏の腕を上げるのが一番!
アコースティックもエレクトリックも全く同じだったのです。
ようやく楽器本体の改造へ目を向けました。
どうせエレキなんて…
と言う人は少なからずいますが、本当にエレクトリック楽器で美しい音は出せないのでしょうか?
私はかつて、エレクトリックについて何も知らないにも関わらず、アコースティック至上主義でした。
意識が変わったきっかけは学生時代にアパートでの練習用に手に入れた初期のサイレントヴァイオリン。
はじめは、たしかにチーチーとした、か細いひなびた音でした。
ところが、1ヶ月を過ぎた頃からほとんどプラスチックでできているように見えるそれは、どんどん太い音になり、アンプに繋がなくてもかなりの音量を出すように変わっていきました。
隣の住人に訊いてみると、
「前は聞こえなかったけど、この頃聞こえるね」
と言うのです。
もちろんアンプを通した音も初めのチーチーしたものとは違い、どんどん太い音に変わっていきました。
その体験から、エレクトリックヴァイオリンもアコースティックと同様に「育つ」ものだと知りました。
このおかげで、ヴァイパーを改造していて壁に当たったと感じる度に首をもたげてくる
「これがエレクトリックの限界」
という何の根拠もない言い訳を振り払うことができました。
もちろん、エレクトリックとアコースティックで全く同じ音色が出るという意味ではありませんが、アコースティックのヴァイオリン同士でも
良い響きのものと
そうでもないものなど
かなりの個体差があるので、
「聴いていて楽しめる」
という(かなり高めの)一定水準を越えていれば良い楽器と呼べるのではないかと思います。
がむしゃらにヴァイオリンの表現力を追いかけた長い長い試行錯誤の時が過ぎ、半ば偶然から改良に成功したヴァイパーは、近年のエレクトリックヴァイオリンにありがちな、抑揚の無い鼻をつまんだような音を卒業し、広いダイナミクスと音色の変化を得て、ヴァイオリンの延長ではない新しい楽器として今日も進化を続けています。
[2018.5.7.Mon.]