Vol.12「多弦ヴァイオリン」

様々な質問にお答えするコーナーです。

今回は5、6番弦の話。
多弦ヴァイオリンにご興味のある方はお役立ていただければ幸いです。

弦が増えることで変化することはたくさんあり、もちろん利点もあれば不満もあります。

まずは6弦を手にする前に私自身も持っていた不安。

Q.1「6弦に慣れると4弦が弾きにくくなったりしないのか?」

A.弦の多い方から少ない方への持ち替えの場合、その心配は全く無用でした。

右手: 弦が増えるほど弓の角度変化がより細かくなるので、少ない(4本)弦はむしろ以前より楽に感じます。

左手: 弦長もほとんど変わらず、調弦も全て同じ五度間隔なので手のパターンは増えた弦にもそのまま当てはまります。
(ヴァイパーのチューニング(Vol.4)参照)

試しに4弦の楽器で、高音側の3本の弦だけを使うのをイメージしてみてください。
4本弦の楽器に慣れたからといって3本弦の楽器が弾きにくくなるようなことはありませんね。
6弦に慣れても4弦が弾きにくくなることはありません。

Q.2「どの弦を弾いているのか混乱しないのか?」

A.弦が多いと慣れるまでのハードルは少し高めですが、
「4弦初心者にとっての4弦の難しさ」
「6弦初心者にとっての6弦の難しさ」
どちらも同じことなので、練習が解決してくれます。

「4弦から6弦に増えた」
と考えれば、難しくなったように見えますが、
「元々6弦の楽器」
と思えばどうということもありません。

Q.3「弦が多いと演奏は難しいのか?」

これもよく訊かれますが、Q.2とは違う意味での質問と解釈して、
A. 4弦用の同じ曲を
4弦で弾くのと
6弦で弾くのとでは
難易度はほとんど変わりません。

Q.4「弦が増えることで困るようなことはあるのか?」

A.1つの楽器にヴァイオリンとヴィオラ両方の魅力を期待して、初めて多弦(5弦)ヴァイオリンを手にした時の私の不満は
「ヴァイオリンの4弦ハイポジションの魅力を失ってしまうこと」
でした。

4弦ヴァイオリンで3弦のハイポジションを強く弾こうとすると2、4弦が邪魔になるのと同じように、5弦ヴァイオリンの4弦ハイポジションも3、5弦が邪魔をしてしまうのです。

そして、弦長が短く、張力が弱いからなのでしょうか?
残念なことに5弦ハイポジションには、4弦ハイポジションのような魅力がありません。
わずかに増える低音域と
4弦ハイポジションでは
結局4弦を選びました。

※とは言っても、ゴリゴリ弾くには少し弾きにくいということで、普通にG線で2オクターヴ弾く分にはそれほど問題ありません。

1挺でヴァイオリンとヴィオラ両方の面白いところ…
とはいかないものの、今思えば
5弦ヴァイオリンはヴァイオリンともヴィオラとも別の楽器
と考えると面白く使えそうです。
約20年前(1990年代)の私には、そこまで柔軟な発想はまだありませんでした。

Q.5 「6弦の魅力は?」

メロディに偏りがちだった意識が、和声やリズムなど楽曲全体に広がります。

今だからこそかもしれませんが、1オクターヴ以上の低音域への拡大の魅力は4弦ハイポジションの不満もかき消しました。

A. ヴァイオリンサイズで5オクターヴを越え、メロディからコード、ベース、リズムもこなすそれは、もうヴァイオリンでもヴィオラでもチェロでもない新しい楽器です。

[2018.3.11.]

[追記]
「4弦→6弦の持ち替えについての再確認」

ウイルス蔓延によりライヴの延期・中止が続き、その後4弦でのライヴ予定がいくつかあったため、しばらく4弦ヴァイパーとヴァイオリンばかりを弾いていました。
その時に数ヶ月ぶりに引っ張り出した4弦は、何の違和感を感じることもなく、ライヴも楽しく終了。

ところがその後…
約3週間ぶりの6弦ヴァイパーがやたらと弾きにくい!
ここ約10年間にこれだけ長期間、6弦を弾かなかったことが無かったので、思わぬ再確認ができました。

丸1日で違和感は抜けましたが、どうやら多弦、4弦の両方を弾くなら、メインの練習は弦の多い方が良いようです。
[2020.7.25. Sat.]

○Vol.13 なぜヴァイパーで弾くのか?
○ヴァイパー奏者の覚書 一覧