(2017.6.10.)
沖縄に生まれ、幼い頃から口ずさんできた島の唄を、器楽(楽器の音楽)で聴いてみたいと思いながら育ちました。
ところが、生演奏はもちろん、テレビやラジオから毎日聞こえてくるものもすべて唄。
なぜ器楽が聴けないのだろう?
十数年待ち続け、大きくなってようやくわかりました。
そもそも沖縄音楽には器楽はほとんど無かったらしい。
それならば、というわけでずっと聴きたかった音楽を自分で作ってみることにしました。
使う楽器はヴァイオリン。
小さい頃から身近にあったこの楽器で、小さい頃から口ずさんだ音楽を弾くことは、私にとってはごく自然なことだったので「沖縄音楽だから沖縄の楽器に持ち替えて…」というような考えは全く浮かびませんでした。
「てぃんさぐぬ花」に三線のような左手ピチカート伴奏を加えることで、それは突然形になりました(1993年)。
↓動画はヴァイパーですが、ヴァイオリンでも全くそのままに演奏できます。
これを聴いた祖母の
「沖縄の音楽とヴァイオリンはよく合うんだね」
の一言は、今振り返ればまるで予言のようです。
ところが、器楽演奏はまだクラシック音楽しか知らなかったその頃。
一回り40秒程度の繰り返しでは楽曲にはならず、もっと複雑に展開していかなければならないものと思い込み、すでに1つの完成形にたどり着いていたことに、当時の私は気がつきませんでした。
民謡主題の変奏曲を作ってみました。
ひとまず形になったものの、沖縄の雰囲気を残そうとすると変化に欠け、自由に盛り上げようとすると沖縄からかけ離れた雰囲気になりがちなそれらの曲に、祖母は言いました。
「綺麗だけど、沖縄の曲には聞こえないね」
それは沖縄音楽ではなくクラシック風音楽でした。
どうすれば沖縄らしい器楽になるのか?
長い年月をかけ、ポップス風、ロック風、ジャズ風、どの○○風音楽を試しても沖縄らしさは弱く、たやすく他ジャンルに飲み込まれてしまうようでした。
やがて出会った大きなヒントはアイリッシュ音楽。
ヴァイオリンを使いながらも、クラシックとは全く異なる雰囲気をもつ音楽。
繰り返しの面白さ!
イタリアで生まれたヴァイオリンは、その豊かな表現力からか世界各地で民俗(民族)楽器としてもよく使われています。
ちょっと挙げてみるだけでも、ロマ(ジプシー)ヴァイオリン、アイリッシュフィドル、ブルーグラスフィドル、インドヴァイオリン等々、これらは楽器名というよりは音楽ジャンルを表している名前で、いずれも楽器はクラシック音楽で使われるヴァイオリンと同じと考えてほぼ間違いありません。
それぞれのジャンルで奏法が云々と言われることもあるけれど、あえて大雑把に言うならば、ほとんどの場合は弓で弦を擦って鳴らすのだから奏法も大差ありません。
私はどうやら
「ヴァイオリンで弾く沖縄メロディ」ではなく
「沖縄音楽と他ジャンルとの融合」でもなく
「沖縄の民族ヴァイオリン音楽」
を聴きたかったらしい。
かつて未完成だと思っていたものに再び目を向けると、それらは以前には気がつかなかった魅力に溢れていました。
演奏するたびに驚かれ
「沖縄には昔からヴァイオリンがあったんだね!?」
と言われることもあります。
この音楽に『琉球ヴァイオリンRyukyuish Violin』と名付けました。
てぃんさぐぬ花(1993年)から20年が経っていました。
※ Ryukyuish Violin (Old-Okinawan Violin Music)
英語表記について。
アイルランドの音楽、ハワイの音楽をそれぞれアイリッシュ、ハワイアンと言うように「琉球の、琉球国の、人、文化、音楽、etc.」を表す言葉はRyukyuish または Ryukyuan。英語圏の友人にこの2つの違いについて尋ねると、意味は同じでRyukyuishの方が響きがかっこいい!と教えてくれたのでRyukyuishに決めました。
アコースティックヴァイオリンから始まった琉球ヴァイオリンをさらに発展させるため、現在はヴァイパー(Vol.7参照)とループペダル(Vol.5参照)を使って弾いています。
無伴奏ヴァイオリン版、広い音域を活かしたヴァイパー版、いくつものパートを重ねるループ版など曲もヴァリエーションも増え、全国各地のみならず海外でもご好評いただいています。
昨年(2016年)11月のふるさと沖縄でのコンサートの後にいただいたメッセージは、とても感慨深いものでした。
「会を重ねるごとに感動が深くなってきました。様々な国の音楽とか民謡という音楽をよく聴きますが、琉球ヴァイオリンを耳にして、私たちの琉球の器楽も世界の音楽と肩を並べて優るとも劣らないものだと知りました。」
器楽が無いと云われてきた沖縄に、ヴァイオリン音楽が生まれてもうすぐ四半世紀。
(この記事は2017.6.10.)
祖母の一言を道標にようやくここまで来れました。
今になってあらためて考えてみると、現在、沖縄の伝統楽器と云われる三線にしても、その昔、原型が沖縄にやってきた一番最初の時が必ずあるわけです。
その楽器で唄った最初の人はもしかしたら
「あんた、変わったことしてるね、それ、どこの楽器?」
などと言われたこともあったのかもしれません。
音楽家の友人に言われ、感激したことを追記します。
「人が考えることというものは、ほとんど必ず昔の誰かもやっていたことで、本当に新しいものを創り出すことはそうそう出来ることではない。琉球ヴァイオリンが生まれ育っていく過程を、同時代に生きて見せてもらえることがとても嬉しい。」(2021.8.29.)
現代の我々が弾き継いでいったなら、百年の後に「沖縄の伝統ヴァイオリン音楽」を遺すことができるのです。
一緒に創りませんか?
楽器はヴァイオリンに限らず、笛などの旋律楽器にもよく合います。ぜひ弾いてみてください。
2段目以降、はたが上を向いている音符が主旋律、下向きは伴奏パートです。