Q.「ヴァイパーはヴァイオリンよりも簡単なんでしょ?」
こんなご質問をいただきました。
私自身が、かれこれ25年前まではエレクトリック楽器に触れたことも無いままに
アコースティックに較べたらエレキは簡単に決まっている!
と何の疑いもなく思っていたクチなので、できる限りわかりやすくお答えしてみたいと思います。
まずはエレクトリックヴァイオリンとヴァイオリンの仕組みについての話から。
弦の振動を
アンプで拡大するのがエレクトリックヴァイオリン
共鳴箱で拡大するのがアコースティックヴァイオリン
美しい音のためにはもちろん、元となる弦の振動を美しく作り出さなければなりません。
そのためにはどちらも安定したボウイング(運弓)が必須です。
音を拡大すると細かな乱れももちろん拡大されるので、音量が上がるほどボウイングもより安定性が求められることになります。
音量が同程度ならばエレクトリックもアコースティックも求められる安定度はほぼ同じです。
そしてエレクトリックとアコースティックを
同じ奏者が
同程度の音量
で弾いた場合、
エレクトリックはほとんど弦のみの振動からの拡大に対し
アコースティックは共鳴箱の共振があるので、
より太い豊かな音が出やすいのはアコースティックです。
なので、何をもって簡単と言うのかは難しいところではありますが、
A.ある程度以上弾ける奏者が弾くならば、美しく演奏するのはアコースティックの方が遥かに簡単です。
次に、先の質問には
(Q.)「エレキは弾き方が少々まずくても機械で何とかなるのでしょう?」
という質問者の思いも含まれているので、それについてもお答えしたいと思います。
弦の振動をピックアップしたそのままの拡大は、波形のわずかな変化も大きく増幅するので、アコースティック音量を越えて更に大音量が要求されるエレクトリックでは、実はアコースティック以上にボウイングの精度が求められます。
わずかな乱れも大波に変わり、雑な音になりやすいのです。
それは機材で何とかできるのでしょうか?
プリアンプやコンプレッサーなどの機材を使うと電気信号の安定化(平均化)をすることができます。
これらを使うと、音量変化や波形の乱れを揃える効果があるので、粒の揃った音を比較的楽に出せるようになります。
近頃のエレクトリックヴァイオリンにプリアンプ内蔵のものが多いのはこのためかもしれません。
となると、
エレクトリックの方が簡単なのではないのか?
と思われますが、
この安定化は曲者です。
安定化とは、変化を鈍らせること。
弱い入力は増幅され、強い入力は抑えられ、平均化されてしまうので、
作りたいと意図した音色と音量の変化
までをも失って一本調子な抑揚の無い音になってしまうのです。
音を出すのが楽になっても、表現力を失ってしまっては、もはやヴァイオリンと較べるまでもありません。
つまり
「機械で綺麗にできるはずだからエレクトリックの方が簡単」
ということは残念ながら成り立ちません。
参考○Vol. 3 エレクトリックもアコースティックも奏者自身の音色
私のヴァイパーは本体に手を加え、接続する機材も極力減らすことで、ヴァイオリンを越える強弱変化と音色の変化を実現しました。
参考○Vol.14 脱エフェクト
A.まとめ
ヴァイパーもヴァイオリンも、運弓、運指の訓練は同じです。
○Vol. 1 フレット付ヴァイオリン
で書いたように、
フレットがあっても音程面で楽ができるわけではありません。
音量を上げると運弓の安定度がより求められます。
弦が増えると余計に訓練が要ります。
参考○Vol.12 多弦ヴァイオリン
ヴァイパーは楽器の保持が楽な分、より演奏に意識を向けられます。
参考○Vol.16 あご当て・肩当てからの解放
奏法の他、ヴァイパーには
アンプ等の音設定と、
足のペダル操作の訓練も加わります。
参考○Vol. 5 ループペダル
このように多少の違いはありますが、
4弦ヴァイパーとヴァイオリンの場合は、
どちらかで弾けるようになった曲は、もう一方の楽器でもすぐに弾けて、
弾けない曲はどちらを使ったところで弾けないので、どちらが難しくどちらが簡単ということはあまり無いようです。
多弦ヴァイパーよりはヴァイオリンの方が弾きやすく思われます。
関連
○Vol. 1 フレット付ヴァイオリン
○Vol. 2 ヴァイパーは電子楽器?電気楽器?
○Vol. 3 エレクトリックもアコースティックも奏者自身の音色
○Vol. 8 ヴァイパーの改造
○Vol.12 多弦ヴァイオリン
○Vol.13 なぜヴァイパーで弾くのか?
○Vol.14 脱エフェクト